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2013'05.30.Thu

オートマタ続き

こんばんは、早く寝ないと胃腸にくるかも…とか、思っている管理人です。年はとりたくないけど、とってしまう此の現実。いのちだいじにです。

 オートマタの続き。ここまで出来ました。あともう少しで一区切りなかんじです。




 二人っきりの病室で、いつものごとく彼女の側に彼が控える。気だるい午後、重く何かがしたたり落ちる手前の空模様はあまり暖かとは言えない。それでも常に適温に保たれているこの部屋は、眠くなるように温い空気に満たされていた。天井も床もベットさえも真っ白の中で、黒い液晶テレビやチェストが異質のように色彩を放つ。茶色のブラインドは、ナチュラルさを売りにした木製品。鼻腔をくすぐる甘い香りは、窓辺の花瓶に生けられた花束からかするらしい。生活感の薄い非日常的な空間で、点滴の音だけが現実感を繋ぎ止めていた。
 検温等に他人がやって来ることがあったが、おおむね二人っきりだ。いやむしろ、二人っきり過ぎる。一枚ドアを隔てられているとはいえ、どうしてこんなにも世界が違うのか。遮断された外界の音が遠い。此処が角にあるせいなのか、はたまた個室という環境せいなのか。その要因になっているだろう美貌の存在は、新品折りたたみ椅子に腰掛ける。声が上手く出せないりんの隣で、彼はその美貌も寛大さも大盤振る舞いだった。無論、男を知る者が見たならばの話だが。
『オートマタ?』
 そう、りんが問えば彼は微笑んだ。
 声のでない彼女は筆記で、目の前の男と交流を図っていた。りんが最初に覚えたのは彼の名前である。いや、銘と言った方が良いのだろうか。
「私は人間ではない」
 そう、殺生丸は人間ではあらず。人間の莫大な知識によって作られた、どうしようもない玩具に過ぎない。
『でも、お耳がないよ?』
 それから、りんは小首を傾げる。
 最初の頃は、一日の内限られた間のみしか彼と話すことができなかった。紙にペンで字を書くにも相応の体力を要するのだ。それも十日も経てば慣れしまい、ずいぶんと打ち解けもした。徐々に話す時間が増えていく。ただ、声はまだ良く出てこなかった。
 医者が言うには精神的なものなので、心が落ち着けば話せるようになるものらしい。
「私は特別製だから、外すことが出来る」
 それから殺生丸はりんの柔らかな髪の毛を手で軽く梳く。
「ここを退院すれば、いつでも見られるようになる」
『ほんとう?』
「ああ、りんの体調も随分良くなった。もう少しすれば、声も戻る」
 三日月を紡ぎ縒り合せたような銀の髪に、日輪のごとき瞳。そのどちらもが、硬質で金属めいた色彩のせいか、酷く冷淡な存在に彼を描いた。けれども、今彼が彼女に見せた微笑は特別だろう。とろりと蕩けた様は蜜を思わせ、細められた黄金がまさにそれ。
 彼の手は子供特有の滑らかな頬を撫で、輪郭をたどる。
「だから、好きなもの、嫌いなものを教えて欲しい」
『好きと嫌い?』
「そうだ」
 幼子はじっと相手を見上げる。それから、紙にゆっくり字を書いた。
『どうして?』
「ずっと一緒にいるために必要なことだからだ」
『ずっと一緒?』
「私はりんが死ぬまで側にいる。その為に必要なことなら、何でも出来る」
 それがオートマタとして愛を請うものなのか、愛玩ペットとしての常套句なのか。黒い瞳と黒い髪の少女には分かるまい。眼前の幼子は瞬きをし、殺生丸を見た。見続ける。
「りんの為なら、何でもしよう」
 畳み掛けるように、彼は告げる。
 何しろ、彼は本当に何でも出来る。ロボットは原則人間を傷つけることは出来ず、殺すことも出来ないとされている。しかし、どんなことにだって例外がつきもので、裏道は存在する。殺生丸のコンセプトには万能さがあるが、それは本当に手広い物だった。まさに、揺りかごから墓場までという奴で、過剰防衛とは随分と都合の良い言い訳だ。
 彼を造る際、碌でもない技術者が混ざっていたのだろう。でなければ、どうして愛玩ペットに要人暗殺ま出来るのだ。
 殺生丸はそれを忌々しく判じていた。全くどうして、何でも出来るのだ。それこそが忌まわしくあるくせに、己の価値であるという。こんなスペックなど、何一つ望まないというのに、だ。
 いっそ、無価値な石ころになってしまえば良いと願ってしまう。そうすれば、彼は愚かしくも繰り返される思考の渦から解き放たれるだろう。だがしかし、殺生丸は選んでしまったのだ。
 此の世の唯一つ、鉄屑になるのでは無く、唯一無二を決めてしまった。
 運命知るは神のみぞ。
「望むままに従う」
 囁く唇は哀切を皮切りに、再び言葉を紡ぐ。
「見返りに、私を愛して欲しい」
「殺生丸様?」
 口元が音を伴わず名前を綴る。
 黒髪の幼子は愚かなロボットを見つめ、それから手を伸ばした。お互いが触れあう頬の片方は温もりを帯び確かな命の脈動を相手に伝え、もう一方は人工皮膚に覆われたビスクドール。温もりを感じたところで、所詮人間を模した贋作だ。すがったのはどちらが先だったのか、秀でた額がぶつかり睫さえも重なり合う間近、吐息さえ重なる手前、殺生丸は呟く。
「愛してくれないか」
 見開いた黒瞳は黄蜜を絡めた双眸を写し、しばし閉じられた。

 やがて、

 返答は吐息のみ。
 ゆっくりと開かれる口元を相手は見入り、紡がれる言葉を拾う。
 零れた代償は、少女のささやかな願い事。

「ひとりぼっちにしないで」

 稚い我が儘は生涯叶えられるだろう。
 儚くも甘美な相手を腕に抱き、彼は艶やかな髪を梳る。類い希なオートマタはその耳朶に最愛の名を注ぎ込んだ。深い熱情を声に孕め甘さを落とし込めて殺生丸は謳う。

「りん―――私はお前だけの物だ」



 殺生丸は一日のほとんどをりんの側で過ごした。時折出かけることもあったが、その日のうちに必ず戻り殺生丸はりんの元へと帰ってくる。彼女の側こそが彼の居場所であった。しかも彼はまめで、りんにお土産を忘れない。
 前から持っていたクマさんのぬいぐるみの隣には、新参者のアヒルさんがおとなしく座っている。小ブタの姿のクッキーにイチゴの形のチョコレート。りんの新しいパジャマはシャーベットピンクにミントグリーンの水玉模様。この間看護婦さんに可愛いと褒められたパーカーは黒猫みたいに小さなお耳と鈴が付いていた。
 引き出しの中のパステルピンクの手鏡はバラ形で、りんの新しい携帯も淡いミルキーピンク。ストラップには硝子のシロツメクサと羊のチャーム。登録してあるのは殺生丸の番号だけで、そのうち新しいお家の番号も登録することになると彼は言っていた。
 そう、殺生丸はりんと一緒に暮らすのだ。ひとりぼっちのりんは、このままだと施設に行くことになってしまう。大人の社会では子供にはやはり誰か大人が付いていないと駄目なのだ。だからりんは殺生丸と一緒に暮らすのが一番なのだという。そうすれば殺生丸は限りなくりんの側にいられるし、互いの所願に添い、さらに余計な干渉を受けなくてすむとか何とか理由があるらしい。実際殺生丸はロボットだが、見かけはりんよりもうんと大人なので、耳さえなければ誰も疑いはしまい。
 本当に、殺生丸は良く出来たオートマタだった。りんはロボットの専門家ではないし、りんの両親もそういったお仕事に就いていなかったが、素人目にも殺生丸の出来映えは出来過ぎの一言に尽きるだろう。りんの知っているロボット言えばもっとユーモラスのきいたもので、決して人間とうり二つではない。それは確か、ロボットと人間を区別するためにわざと作り物めいて作ってあるのだと誰かが言っていた。
 しかしながらその実おかしな物で、区別する割に人間そっくりの物を欲しがっているものまた事実。オートマタの人気の秘密はそこにある。友達の友達の話では無いが、偉い人にはその特別製の人間そっくりのロボットで影武者をしたて、テロ対策としているという噂まである。
 その素晴らしい出来映えのオートマタが言うにはだ、りんは退院したら新しいお家で暮らして、新しい学校に通うことになるらしい。。
 それから、りんが絶対に覚えてきちんとしないといけないこと。それは殺生丸のことだった。オートマタは子供が持ってはいけない大人のオモチャ。だからりんが殺生丸の主だということは秘密で、誰にも言ってはいけない絶対のお約束なのだ。もし誰かに聞かれたら、親戚とでも言えばいいとは、殺生丸の台詞。
 とはいえ、オートマタはロボットで、確かに見かけだけ上辺だけなら人間の真似事など出来て当たり前。だが、りんとてロボットが簡単に人間の振りをできないのを知っている。普通の人は赤ちゃんとして生まれた時に出生届けを出して、戸籍を作ってもらうのだ。そういう身分を証明する物はどうするのだろうと、疑問に思ってしまう。
 殺生丸が多少かどうかは謎だが、年をとらないことぐらいは何とかなるだろう。何しろヒトゲノムをマスターした人類は、究極のアンチエイジングを追い求め、求めた果てに特殊な薬品投与と手術で叶うようになってしまった。無論、代償は保険もきかない莫大な金額と、曖昧な適合率だったが。とはいえ昔から若作りというのは一種のステータスであり、細胞レベルの不老を望まない限りある程度の年齢は誤魔化せる。
 テレビを見れば、往年の女優でありながらその美貌に衰えが窺えない人が何人も出て来る昨今だ。だから、多分きっと、そのあたりは大丈夫なのではとりんは考えていた。
 だがやっぱりりんは、僅かで素朴な疑問が沸いてしまう。
 殺生丸様はどうやって、お金を調達しているのだろう。
 問えば、殺生丸はその唇に弧を描く。
「大丈夫だ」
 何が大丈夫なのか分からずりんが首を傾げれば、大きめの掌が頭を撫でる。
「正当な要求をしているだけだ」
 一体誰にだろうと思ったが、名残惜しげに離れる指が唇をなぞっていく仕草にりんは彼が病室を出て行くのだと気がついた。
「殺生丸様」
「夜には帰る」
 声なき呼び声にオートマタは返すと、やがて部屋には少女が一人。己の代理にと贈られた犬のぬいぐるみを抱きしめて、りんは夜を待ちわびるのだった。


 正式にUPするときとか、台詞変わってる箇所あるかもですが。

 うう、もう眠いので限界なので、寝ます! ではでは~
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2013'05.12.Sun

オートマタ

こんばんは皆様。お久しぶりですのほうが、正しするい気がする管理人です。

ピクシブの方に昔打っていたうさ耳ネタをいぬ耳にして、UPしました。続きとかあんまり考えていなかったのですが、打てそうな気もしないような、気もするので、打ってます。


でもって、以下の感じまでしか作業進んでません。

二話目(?)はご母堂様が出て来るあたりまでが目標なんですが……っていうか、そこでぶち切れな感じ(苦笑)



 りんは思わず頬を膨らませてしまう。リスの頬袋みたいにまん丸に膨らませて、眉を寄せてしまう。
(殺生丸様はりんだけのわんこさんなのにっ!)
 今日は小学校の授業参観日。朝からクラスの誰もがそわそわしてて、いつもより張り切って授業を頑張っている。りんだって、同じだ。だって、今日はりんの大好きなわんこさんが学校に来てくれるのだ。だからりんは前の日にいっぱい勉強したし、今だって担任の先生がする質問だって魔法のようにすらすら解ける。同じように、気合いの入った挙手をするライバルも多いけど、りんだって負けてない。
 とはいえ、りんは自分の背後のほうがすごく気になっていた。かすかな囁きと浮ついた空気。りんの身長は平均より低いので、どうしても席順が黒板の前の方になってしまう。だから、振り返りたくてもそうそう振り返られない。ああ、でもやっぱりとっても気になってしまう。
 だって、だって、だって───殺生丸様が見に来てくれてるのに!
 このクラスの女の子も女の人もみんな、みんな、りんのライバルになっている。眉を寄せて、りんはやっぱり拗ねてしまう。膨れた頬はふくれっ面のまま改善できない。どうして、担任のあの先生はいつもよりおめかししてるの? とか、誰かの香水の臭いが漂ってきたりするとか、よそ事ばかり考えてしまう。
 そもそも、家庭訪問に来た時だってそうなのだ。担任の先生はいつもは優しくて、りんのお話だって聞いてくれるのに、りんのお家に来た途端、否、殺生丸様に会ってからすっかり惚けてしまった。だから、今日のおしゃれの念入りさが気にくわない。
 先々月、先生には恋人がいるって言ってたのに、嘘つきと思ってしまう。



 りんの大切な、寂しがりのわんこさんは特別製。オートマタというロボットの種類で、頭に素敵きなお耳がついている。いつも美味しいおやつとやっぱり美味しいご飯を作ってくれる、大切なりんのわんこさん。
 りんとずっと一緒にいてくれる約束をしてくれた、りんだけのわんこさんなのだ。
 そもそも、りんが殺生丸に出会ったのは、多分半年以上は前で、でも一年は経っていないぐらい。何しろ、りんはあまり覚えていないことが色々ある。
 りんの両親は一年前ぐらいに事故に巻き込まれて亡くなってしまった。原因はよく分からないけど、とっても大きな事故で、りんも一緒に巻き込まれたのだという。殺生丸様が説明してくれたのだから、きっと本当の事だと思う。
 りんの両親は共働きで、父も母も忙しくて、いつも難しいことばかり考えるお仕事ばかり。りんは小さいから全然分からないが、何処かで大切な研究をしていたのだ。それはとても長い研究で、でもやっと目処が立っただろう。小さなりんを連れて、旅行に出かけることになったのだから。
 その旅行の途中で、大変な事故に巻き込まれたのだ。そして、りんの両親はこの世からいなくなってしまった。
 りんも怪我をして、危ない状況だったらしい。旅行に出かける時は夏だったお空が、病院で目覚めた時どんよりした雪雲に覆われるぐらいに、りんは長く入院していたらしい。
 真っ白い病室はりんだけの個室。まぶたを開けた先、一番最初にシミの無い純白の天井、次には曇った空と窓、そして点滴のチューブ。ひとりぼっちのお部屋はとっても静かで、りんはどうしてこうなっているのか、全然分からなかった。りんのお父さんとお母さんは仕事が忙しく、りんはいつもひとりぼっち。本当は兄弟が欲しかった。優しいお姉さんかお兄さんか、可愛い弟か妹が欲しかった。
 でも、我が儘は言えない。だって、忙しくてもりんの両親はりんの事を大切にしてくれていて、それは疑ってはいけないことなのだ。時々電話がかかってきてりんとお話しする時は、いつもりんの事を「大好き」って言ってくれたから、お誕生日には大きなぬいぐるみだって買ってくれたのだから、側にいなくても我慢しなきゃと思っていた。
「………」
 父親を呼んだつもりで開いた口はうまく言葉にならなかった。どうして、声が上手くでないのだろう。久しぶりに動かすように、舌も口も回らない。
 次には、お母さん。
 でも、やっぱり上手く言葉にならない。
 そもそも、動くことが億劫で体に力が入らない。ずっと寝ていたように、なんだか起き上がれないのだ。そのままじっと天井を見ていると、どうしてだろう。真っ白のお化けみたいにぐにゃりと、視界が歪む。温かいものが頬を伝った時に、りんは泣いてしまったと気がついた。りんはお利口さんだから、一人でいても、そうそう泣いたりしないのに。だって、そんなに泣いてもりんはひとりぼっち。お父さんもお母さんも、なかなかお家に帰ってきてくれない。
 お家にはご飯を届けてくれる人がいて、お腹が空いて困ることは無いけれど、ぬいぐるみと一緒のテーブルはどこか寒くて、りんは沢山食べることができなかった。
 いただきますも、ごちそうさまも、りんは忘れたりはしない。時々かかってくる電話で、ちゃんと良い子にしてるって言えるからだ。好き嫌いだってしない。そうやってちゃんとしていると、お父さんもお母さんも、りんは良い子だねと褒めてくれて、そして、とっても安心したような声を出す。
 上手く声は出せず、自分がどうしてこうなっているのかも分からない。分からないと言うことは、年齢に関わらず恐ろしい。幼子とて例外では無く、上手く出せない声はそのまま様々な言葉に成り代わろうとし、けれども単語すらままならない。
 何度か口を開閉し、やっと絞り出したのは言葉と言うよりは鳴き声のようなものだった。
 そうやって掠れた呻きを繰り返した時、りんは真白の天使様を見た。
 男の人が側にいたのだ。

「私がいる」

 彼はとても優しい、優しすぎて手放せなくなるほど心地良い声で言う。
 ビロードのような指が、眦の滴を払った。

「私が、ずっといる」

 敬虔な信者のように、彼は彼女に頭を垂れた。

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2013'05.12.Sun

MySweetAutomata

こんばんは、ぴくしぶにあげているオートマタの一話目も載せておきます。
どの環境でも読めた方がいいかなとかも、最近思うのです。

【MySweetAutomata】



 遠いような、近いような、そんな時代。
 これはそんな頃のお話。


 土地付き庭付き一戸建て、オマケに素敵なペットまで貴女の生活に潤いを……とは、ちまたで流行のキャッチコピー。もう、かれこれ十年近くは定番となっているフレーズだった。
 テレビをつければ、必ずゴールデンタイムには流されるCM。
 今では小学生でも知っているもの。
「ただいま~」
 元気よくご挨拶するのは、小鳥も恥じらう愛らしい声。ぱたぱたと駆けてくる人影は、何処からどう見ても子供だろう。
 ぴょんとしっぽのように、片方一房だけわんわんの髪飾りを付けて、パステルピンクのランドセルを背負った少女が帰ってくる。玄関を通りすぎ、いの一番に入ってきたのはダイニング。キョロキョロと周囲を見回すと、お目当てのものをみつけたのかダッシュして抱きついた。
「殺生丸様っ、殺生丸様っ!! りん、帰ってきたよ」
 そこにはエプロン姿の男性が一人。振り向き様ランドセル姿の少女を抱き留める。対面式キッチンなのだろう。シンク側に彼はいた。
 目に眩しいプラチナが、窓からの日に輝く。男性にしては色白で、だからといって貧相でもない。それなりに均整良く、いやどう悪く見てもスタイルは特上の出来だろう。足は長いし、顔は小さめ。勿論胴は無駄に長くなく、厚めの胸板が逞しさを感じさせる。
 それでいて、妙に色気がある。
 黒のシャツを着崩しているので、覗く鎖骨が色っぽいのだ。捲りあげた袖から生えた二の腕と云い、こんな相手に抱かれたら、どんな女性さえも嫌がりはしまい。
 そう、例え犬ような耳が生えていたとしても、軽蔑する異性はいないだろう。
 人々が新婚旅行に月へ行くことも可能な程科学が進歩した昨今、一番人類を惹きつけたのは人工的に作られた愛玩用ペットの存在だった。初めて人間の前にお目見えしたのが、二十年前。猫や犬と云った既存の動物の複製ロボットに過ぎず、ほほえましいものであった。
 それが信じられない進化を遂げたのが十年前だ。
 オートマタと呼ばれる新シリーズの登場である。名の由来はそのまま自動人形を指している。
 つまり、人間の形をした愛玩ペットだったのだ。
 制作者は当時ロボット制作の天才と謳われた、狗神博士。その能力は従来の愛玩ペットを超越しており、まるで人間のような出来映え。特に素晴らしいのが、人間の持つ愛情という感情を感知し、それによって生命維持活動をすることだろう。Love回路と呼ばれているこのシステムは、まさしく愛玩ペットに相応しい、究極の存在だった。
 回路の導入により、ペットと飼い主との親密さが跳ね上がったのは云うまでもない。また、動物型の愛玩ペットの名残か。オートマタシリーズは、どのデザインだろうと必ず動物の耳を備えていた。
 狗神博士の作った愛玩ペットの完成度の高さは、十年経った今でも廃れはしなかった。但し、市場に出回る商品はそれにくらべればオモチャのようなコピーにしか過ぎない。何しろ、とんでもない発明品なのだ。あまりも凄すぎて、そっくりそのままコピーするのは不可能だと云われるほど。外見も中身も、神業級の出来映えだったのである。
 とするならば、ランドセル姿の少女が抱きつく相手は云うまでもなく愛玩ロボットのオートマタシリーズだろう。
 しかしながら、とても大量生産型の廉価版とは思えない。外見からして途方もない秀麗さを持っている。オーダーメイド品にしても、信じられないほど細やかな作りをしていた。
 甘えたにゃんこのように女の子は愛玩ペットに抱きついたまま、その腕の中をたっぷりと満喫する。
「殺生丸様、今日のおやつはなぁに?」
「今日はりんの好きなものを用意してある」
「え、本当? わーい、殺生丸さまぁ、大好き!!」
 少女はぱっと綻び、ひまわりのごとく大輪の笑顔を見せる。彼女の喜びを示すように蜜柑色のワンピースが揺れる。
 つられてだろうか、愛玩ロボットの方も微かな笑みを浮かべた。元々がクールと思わせる、氷の美貌。切れ長の瞳はつり目で、鋭さを秘めた黄金色。すっと通った鼻筋は、彼のプライドと気位の並々ならぬ高さを示すだろう。彫り深く、東洋人とは思えない。
 口元も同様で、お人好しとは果てしなく縁遠い雰囲気を漂わせていた。
「りん、それもいいが……帰ってきたら、帰宅の挨拶をしないのは悪いな」
 優しく、真綿で撫でるような声で、彼は少女を諭す。それから、自分よりも小さな手を両手で包む。スキンシップなのかもしれない。
 すると、女の子はちょっぴりシュンとなる。うつむき、それから上目遣いに相手を見た。まあるい、黒瞳が男を映した。
「ご、ごめんなさい……殺生丸様、もしかして怒ってる?」
 しかし、ロボットはゆっくりと首を振る。彼の銀髪が左右に動く。瞬きし視線を合わせるようにのぞき込む。
「りんに怒ったりはしない。お前は私のマスターだろう?」
 そう、驚くべき事を云ってのけたのである。
 本来、愛玩ペットのオートマタシリーズは大人向けの商品とされている。対象年齢が、基本的に20歳以上なのである。正確に言えば、子供と学生は持つことが出来ず、社会人のみ買うことが出来るアダルト玩具。無論、怪しい意味ではない。大量生産の廉価版と云えども、それ相応の値段がするのだ。とても、お小遣いで買える品物ではなかった。
 しかも、銘はあの『殺生丸』。
 事実、彼は特別製。この世に一体しか、存在しないだろう。
 何しろ、超、曰わく付きの愛玩ロボットだったのだ。



 煌びやかな明りは、眩しいほど。豪奢なシャンデリアは、古き時代より伝わるホテルの装飾である。昨今、ダイヤと言えば人工物が主流だが、この頭上輝くシャンデリアはそんな、有り体の物ではない。
 今夜の舞台、老舗の一流ホテルの目玉とも言える、天然もののダイヤであった。今時、珍しいではすまされぬ。それどころか、値が付けられぬ高値だろう。その途方もないアンティークの照明のもと、今宵のレセプションは幕開けていった。
 愛玩ペット業界といえば、もう十年程経つだろうか?
 従来のペットロボットから、飛躍的に進化したその姿は、まさしく人間そのもの。ペットという定義からかけ離れた能力を持ち、それこそ万能人形に近いと言われている。この業界がドル箱と呼ばれる所以は、そこだろう。
 特に、五年ほど前に公開された新型の愛玩ペットは、まさしく言葉がない出来映え。ぐうの音さえでない。
 この業界に革命を起こしたほどであった。
 名を闘牙といい、ロボット研究者の天才とも呼ばれる狗神(いぬかみ)博士が作成した物であり、最初で最高の愛玩ペットと言われている。現在はこのタイプのコピーが主流で、廉価版が大量生産されていた。とはいえ、オートマタシリーズの特徴でもある外観に関してはオプションで自由に選択可能なため、飼い主の好みに幾らでも変えられる。
 また性格も買ったばかりは真っ新なので、従来のペット同様一から教育すれば、自分の好みのままの相手が出来上がるのだ。生命維持に必要な愛情さえ惜しまなければ、至福のペット―――それが、手に入る。
 ちなみに、全オートマタシリーズのオリジナル闘牙の方は、狗神博士の愛娘の十六夜嬢の側で、今もなお起動中。
 亡き父親の跡を継ぎ、ロボット研究者になった彼女のサポートを勤めているという。
 そして、今夜はその愛玩ロボットの金字塔『闘牙』をも越える次世代愛玩ペットロボットの初お目見えの日。
 しかし、悲劇はこの夜起こった。
 後の世、業界人から暗黒のレセプションとも、魔王光臨とも噂される次世代用に作られたオートマタシリーズの銘は―――『殺生丸』。
 彼は、その美貌にしても、その能力にしても、その頭脳にしても、今世紀最大の品物となる筈だった。
 そう、何もかも完璧な筈だったのだ―――ある一点を覗いては。
 それこそが不幸を招いたる原因と、呼べただろう。



「で、でも……殺生丸様寂しいと死んじゃうわんこさんだから……りん、ごめんなさい」
 幼い顔できゅっと眉を寄せ、エプロン姿の愛玩ペットに彼女はすり寄る。ランドセルを背負っていると云うことは、小学生と分かるだろう。しかし、オートマタの主に子供はなれない。何よりも、彼女は幼すぎた。
 また、『殺生丸』という銘の愛玩ロボットは、本来存在するべきロボットですらない。五年前のレセプションにおいて、廃棄処分されている筈なのだから。
 けれども、幼子をマスターと呼び、慈しむのは『殺生丸』本人。もし、かつての彼を知る者がいれば、信じられないと首を振るだろう。もしくは、あまりの恐ろしい光景に失神するかも知れない。それほど衝撃な姿だったのだ。
「りん、謝らずともいい。必要ない」
 彼は自らの主の名を紡ぐ。
 そう、殺生丸のマスターは鈴宮りん。小学四年生、正真正銘の子供である。
 五年も前の夜、今世紀最大の愛玩ロボットが誕生するはずだった。
 『殺生丸』という銘の愛玩ロボットは、その為に作られたオリジナル。かつての天才が作った闘牙を越えるべく、とある有名企業が総力を決して制作した品物。
 実際、このプロジェクトに関わったのは、皆業界では名の知られた研究者ばかり。誰よりも秀でた頭脳を持つ、集団だったのだ。
 日々彼等は研究し、天才とも奇才とも云われた狗神博士を超えようと、躍起になった。睡眠を削り、食事を削り、ラボという建物にこもり、ひたすら、ただひたすら制作に没頭した。
 果たして、結果は確かに出た。
 赤子の世話から、要人暗殺まで、何でもござれの万能愛玩ペット『殺生丸』の誕生となったのだ。発売手前まで、遂に漕ぎ着けたのである。残りは、実際テストするのみ。彼等のスポンサーである有名企業の会長はそのモニター役に、自らの愛孫を指定したのであった。もしかすると、それがそもそもの間違いか。
 『殺生丸』という銘の愛玩ロボットは、本当に秀でた出来映えだった。まず、これ以上はない結果を生み、失敗知らず。研究者達は誰もが機械の打ち出す数値と、ロボットの成果に酔いしれた。自惚れていたのかも知れない。
 欠陥に気が付かないまま、レセプション当日を迎えてしまったのだから。
 ごく平凡なキッチンで、殺生丸はりんを見詰めながらすべらかな頬を撫でていた。不満などまるでないという顔を見せる。
「挨拶は分かるな?」
 尋ねられ、りんはうんを首を縦に振る。
 彼と彼女の約束事があるのだ。忘れてはいけない、お約束。
 少女はにっこりと微笑んだ。
「ちゃんとお帰りなさいのごあいさつするね。殺生丸様、大好き!」
 そう言うが早いか、戸惑うこともせず無邪気にほっぺへ口付けた。定番のようにチュッという音を立て、唇をぺったんこしたのだった。



 男に嫌がる素振りはない。むしろ快く受けていた。
 ランドセルを背負ったまま、小さなりんは殺生丸へと口付ける。伏せた睫毛の影が頬にかかり、スミレを含んだような可愛らしい唇が躊躇なく男の元へ。勿論、ほっぺという場所は決まっていたがキスであることに変わりなし。
 正直、微笑ましいではなく、いかがわしい気がするのは……相手が殺生丸であるかも知れない。
 それから彼は立ち上がり、少女の手を引く。
「りん。手を洗ってきたら、おやつにしよう」
 けれども、どうしたことか。少女は動き出さなかった。きゅっとスカートを握りしめて、上目遣いでお強請り体制。ウルンとさせた瞳がなんとも愛らしい。膝小僧の前で両手がゆらゆら揺れていた。
「………」
「……りん、どうした?」
 眉を寄せて恥ずかしそうに、だが頑張って云ったのはささやかな願い事。他の誰でもない、彼女のわんこさんへのお強請りである。
「あ、あのね、りんにも……ただいまの…ご挨拶して欲しい…」
 だめ? と、云いたげな様子が、また愛しいというもの。少し右斜めに傾かせた表情が絶妙のバランスで男に訴える。ぴょんと括ってある髪がとちょっとだけ跳ねていた。
「……殺生丸様…?」
 そう云われ、本当に駄目と云える相手がこの世に存在するものか。マシュマロ製と思わせる柔らかほっぺたに、彼の手が触れる。両手でもって包むよう。膝をつき、恭しく彼女に跪いていた。
 このロボットの破格の微笑は、彼女の為だけのもの。マスターだけに許される贈り物で特権だった。
「悪かった、りん」
 日の光に透ける銀色は星にも勝る輝きか。けれども、もっと綺麗なものすぐ側にある。
「―――愛している」
 それから、
 言葉紡いだ唇はそっと彼女の右頬に触れていた。



 愛玩ペットとは、愛されるための玩具。いわば体の良いお人形。
 彼等にとって愛し愛されると云うことは、人間の呼吸か食事に近い。無くてはならないものなのだ。
 Love回路と呼ばれる生命維持装置。
 この絡繰りで、全てが拘束されているからだろう。生まれてより未来永劫、彼等を縛る回路は実に分かりやすいシステムだった。
 愛されればそれだけで稼働し続けられる。まず壊れることはない。けれども、一度失えば二度と動くことはない。ただの金属の塊となってしまうのだ。
 YESとNO程度に簡潔な二択は、究極な関係。
 彼等におけるのマスターは神にも等しく、絶対的な存在。だからだろう。盲目的に愛を乞う姿は、冗談抜きに愛の奴隷―――そのもの。
 これは勿論、殺生丸にも云えること。
 ただ、彼の場合は少々勝手が違っていた。本来ならば人間に選ばれるべきはずが、この男に関しては正反対。おこがましくも、自らの選択肢とした。
 五年前のレセプションで起きた悲劇は、もう説明あるまい。
 愛玩ロボである彼が、よりにもよってマスターを拒んだ所にあったのだ。



「殺生丸様、これ美味しいね」
 にこにこしながら、りんはおやつをぱくり。
 お菓子を頬張る少女は、ごく自然に自分の愛玩ロボットを見た。ただ、彼女が彼をどの程度理解しているのかは、とても疑わしいところ。犬の耳があるので、わんこさんだと……思っているらしい。
 しかし、左隣の椅子に座る相手は気にもしない。彼にとってそれが実はどうでも良い事なのか。もしくは、一計あるのか謎だが、二人の関係は良好だった。
「りん、付いている」
 そう指し示すのは、自分の口元。鏡のように真似て指さすことで、伝えているのだろう。
「うんと…ここ?」
「いや、違う」
 長めの形良い指先が伸ばされる。
「殺生丸…様?」
 そのまま少女の唇近くを触れると、黄色いクリームがくっついてきた。殺生丸お手製の、ジャガイモのスイートポテトのものだ。使うのがサツマイモではなくジャガイモなのがポイント。甘みあっさりのこのおやつが、近頃のりんの大好物となっていた。
 彼女の口元から失敬したカスタードクリームを、殺生丸は一舐めしてしまう。ちろりと赤い舌が蠢く。指先が唾液で濡れる。
 それから一言。
「……甘いな」
 と、曰(のたま)った。
 キャンバス地のエプロン姿とはいえ、しかも不細工なブタともタコとも見える謎のアップリケを付けながら、彼の仕草はノーブルともエレガントとも映った。いいや、やっぱりいかがわしい。
 黒いシャツの胸元が妖しいせいなのか。覗かせている鎖骨のせいなのか、はたまた捲られた二の腕のせいなのか。
「甘いの嫌いなの、殺生丸様?」
 ぐざりと、もう一切れをフォークで刺しつつ、りんが尋ねる。
「―――いや」
 あんぐりと大口を開けた少女は、一口でぱっくん。
 強引に口に入れたためか、再び頬にクリームが付いていた。それは、さっきよりもきわどい下唇近く。
 ―――ペロリ。
 彼女のすぐ側では光を遮るように、影法師が覆い被さっていた。ダイニングの床では小さな影と大きな影が一つのように交わる。
 そして、やっぱり一言男は曰った。
「こういうのは、美味しい」
 りんは今さっき舐められた箇所を指で触る。少しだけ湿っぽい唇。次に自分のわんこさんを見る。
「そんなに美味しいの?」
 ほっぺは熱く、ドキドキの一本調子。
「……ああ」
 頷く殺生丸の瞳は伏せられていたが、どことなく嬉しそうだった
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2013'04.11.Thu

できないことこそ

こんばんはです。管理人です。
お絵かきできないスペックなノートさんですが、やはりお絵かきしたいような…気がして…。
あと数万出せばよかったと思いつつ、ペンタブのちっこいの買ってみようかなとか思います。プロフ絵ぐらいは描きたいかもです。
ああ、もう、後悔先に立たずです。でもって、またこのキーボードに慣れてないです。でもって、変換機能にも慣れない。まだATOK入れてないです。引っ越しとかも全然です。
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2013'03.20.Wed

慣れない

こんばんは、皆様。管理人です。
新しいパソ買ったんですが、なんだか慣れません。っていうか、まだデーターの移動とかできてないです。
今月中はきっとそんな作業中。
メインのパソさんがが微妙な時があるので、サブに買ったのでテキスト打ててネットできればな感じですが……。このキーボードに慣れないと打ちにくいです。
そんなこんなで、本日はいつも使ってるエディター入れて終了。ホームページの更新とかはどうしようかな…ですが。ビルダーさんともお別れしてなんか考えようです。

ではでは、皆様お休みなさいませ。
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